片鉄の702はテセウスの船

21世紀、2012年昭和87年秋。キハ42000は走り続ける。

 

私が参加している片上鉄道保存会では国内唯一の稼動可能な現役キハ42000(キハ07)のリニューアルを行いました。この11月に仕上げ塗装に入り、70年代までの2色塗りを再現。一年をかけたリニューアル工事を追えやっと皆様に見て頂ける理想の姿になってきました。

作業を開始したのは一年前、鉄道廃止から20年、車体には大穴が開き、ガタガタの車体を綺麗にしたい、まだまだ走って欲しい、そんな一念で作業が始まりました。

片鉄会員は古い車両と格闘してきた百戦練磨の会員も多く、作業がみるみる進んでいきます。その手際の良さは日本の保存鉄道でも群を抜くものと思います。

勿論みんな、ボランティア。普段は会社員や自営業をしながら、週末や暇な日に集ってきてはコツコツ作業を進める。東は滋賀から、西は福岡まで移動距離も大きい。金曜深夜に仕事を終えて下道走って朝着いて、作業開始。昼間みっちり作業をして、夜は酒を酌み交わし夢を語る。日曜暗くなると作業を止めて一晩かけて帰り、翌朝から普通に会社へ。

全て普通の人の普通の週末。

パテだらけになった2011年冬前のこと。

ここで片鉄塗装班としては問題に直面します。片鉄は月一回の展示運転の為に車両の整備から軌道の保守、信号や踏切の整備まで、鉄道としての様々な業務があります。車両の整備でも機関、ブレーキ、電気系統など課題だらけの中、車体の塗装はなどの部分はどうしても後回しに成らざるを得ません。悠長に塗装をしていては全体計画に影響を与えてしまう、また全ての車両が満足な状態ではなく、機関のかかり難い冬場は比較的機関の調子が良い702の本務車登用は必須。702を運用出来る状態で整備を続けて欲しいとの片鉄の総意がありました。

2011年は客車3両、片上港の552と塗装をしてきましたが、塗装班の満足度としては今一歩時間をかけて下地をやりたいという気持ちがありました。

そこで思いついたのは少ない時間で下地をやりつつ、作業終了リミット時間になったらサッと塗ってムラのない色で塗って違和感のない色を塗るということ。作業途中の傷や削る前のパテがあっても目立たない色。それでいて本塗装の色を邪魔しない色。

そこで塗ったのが国鉄指定黄色5号、カナリアイエローが最適と判断することになったのです。

片鉄は常々色々考えます。片鉄は全ての行動規範を鉄道現役だったらどうしただろうか?に答えを求めます。鉄道現役がやっていたことは過去の事故や失敗、または成功から導き出された行動だった。それを守り続けていくことで、本当の意味の当時の片鉄の再現になるのではないか?もしかして鉄道の保存とは車両や施設そのものではなく、この考える過程が保存するべき目的であり、車両はその手段に過ぎないのではないか?

自分が昭和87年現在、片鉄職員だったとして、この問題をどう解決するだろうか?

昨年冬。まずは黄色一色に。

突然現れた、黄色のキハ42000に町民も驚いた。

かくして2012年新春から702号は黄色で良く本務運転に充当されていきました。展示運転の合間を縫って、車体は少しづつ傷を減らし、ツルツルの車体へと仕上がっていきました。またある会員はコツコツと車内内装をバラしていき塗装を施していきました。一年をかけ、702は若返っていくようでした。

さて、ギリシャ神話にはテセウスの船というパラドックスがあります。

では片鉄現役時代には存在しなかった黄色5号の702号は片上鉄道なのか?

キハ702号はこれを護ってきた諸先輩方のお陰で誇らしくも動態保存である。動態であるということは残念ながら日々オリジナルから遠ざかっていく、部品単位では様々に入れ替わっている。ある人はそれはいけないから触ってはいけないというかもしれない、でも動態である以上、次々と脱皮していくことは宿命である。

大事なことはコンセプトを受け継いで、保存していくこと。

2012年、物議をかもしたらしいキハ702は2012年に黄色なったという歴史を残して、次の時代へ進むことにする。

11月の展示運転終了後、15:30いよいよ作業開始。

嘱託猫駅員コトラも今日は作業監督として作業を見守ります。

いよいよ、702の仕上げに入る時が来ました。片鉄総意の作業方針は柵原方向の新線建設へ向け全力であり、702へ戦力を割くことは出来ない。導き出された結論は展示運転終了後15時半、その全員を702の塗装に向け、陽が暮れるまでの2時間での仕上げを行うという一点突破の電撃戦でした。

しかし、それにしても時間が足りない。あとは人数。

展示運転中、来場の皆様に声をかけ、お手伝いをお願いしたところ、多くの一日会員さんが作業に参加いただける事になりました。おかげさまで作業開始からみるみる作業は進んでいきます。

また戦術として、足場のない場所は危険で作業効率も悪く。2番線で山側を塗り、慣れた会員は細部を塗り、初心者は大きい面を塗る。

山側が終わったところで作業員を乗せ1番線へ転線。陽も傾き始める。この微妙な姿。

転線させ、足場の良い1番線で川側を塗ることに。動態保存車ならではの芸当だろう。

陽が落ちる頃、作業は終了。お疲れ様でした。さぁ帰って朝から仕事だ。

かくして片鉄702号は新しい歴史を綴けています。

いまなお現役 片上鉄道。

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